28:肝試し、やらない?


 辺りが闇に包まれるにつれ、だんだんと騒がしくなってくる外に、三子は胸を躍らせていた。思いのほか冷たい母の手が、自分のうなじに触れる度、くすぐったいような心地よいような不思議な感覚に支配される。

「できたわ」
「ありがとう!」

 差し出された鏡でに自分の後ろ頭を映すと、三子の口から感嘆の声が漏れ出た。

「すごーい、可愛い!」
「あんまり頭を動かさないようにね」
「うん」

 普段は下ろしっぱなしの髪なので、涼やかなかんざしを挿したアップ姿が物珍しく、三子は何度も鏡の角度を変えて自身の髪型を見つめていた。
 夏を目前に控えた土曜日、夏祭りが開催されることになった。
 転入したばかりの三子は、直前までその存在を知らなかったのだが、数日前、由香里や美樹に一緒に行こうと誘われる形で、知ることとなった。

「三子もすっかり大きくなったわね」

 鏡越しに、理恵子と目が合った。三子は照れくさそうに笑みを零した。

「まだ身長は低いけどね」
「これから伸びるわよ」

 理恵子の手が伸び、そっと三子の頭に乗せられる。つい先ほど、頭を動かさないよう言ったばかりなのに、彼女はそのままゆっくり頭を撫でる。三子は三子で、彼女の手が心地よく、されるがままになっていた。

「せっかくのお祭りなんだから、お母さんたちも来ればいいのに」
「そうね……。でも私、人ごみは苦手だから。私たちの分も、夏祭り楽しんでね」
「うん……」

 なんとなく名残惜しい気分で、三子は理恵子と共に玄関まで出てきた。二人の声に気づいたのか、智恵も部屋から出てきた。

「あまり遅くならないように。気をつけてくださいね」
「うん。二人の分のお土産も買ってくるね! 冷えたら美味しくないだろうから、綿あめとかリンゴ飴とかはどうかな?」
「そんなに気を使わないでいいのよ」
「うん」

 短く返事をしながらも、三子はお土産を買う気満々だった。行けないのなら、せめて食べ物だけでもお祭り気分を味わえた方が楽しいだろう。

「鼻緒は解しておきました。詰めて履かずに、前に少し余裕を持たせて歩くんですよ」
「はーい」

 さすが、いつも和服を着ているだけあって、祖母のアドバイスは的確だ。初めて下駄を履くので、靴擦れしないかだけが心配だったが、なんとなく大丈夫なような気すらする。

「行ってきまーす」

 母のお下がりの浴衣に、振るとシャラシャラ鳴るかんざし、右手には可愛い巾着のバッグを持って、三子は夏祭りへと出発した。いつもと違う格好に、自然と気分も向上してくる。三子はゆっくり階段を降りながら、待ち合わせ場所である十字路へと向かった。
 夏祭りは、仁科家神社の真下の道路で行われる。いつもは時折車が行き交うその道路も今夜ばかりは歩行者天国となって、出店が並んだり、神輿が通ったりするのだ。
 長い道路を進むにつれ、賑わいを見せていく闇夜に、三子の足はどんどん早くなっていった。十字路に着くと、もう由香里と美樹は先に着いていたようで、大きく手を挙げた。

「こっちこっちー!」
「ごめんね、遅れて!」
「ううん。わたしたちが待ちきれずに早く来ただけだしね」

 由香里と美樹は、示し合わせたように笑った。夏祭りに浮かれているのは、何も三子だけではないようだ。

「じゃ、早速行こう行こう!」

 由香里が先陣を切って歩き出し、三子と美樹はその後を追う。

「ねえ、最初はどうする? 何か食べるか、遊ぶか」
「うーん……」
「三子ちゃんは?」
「えっ」

 突然自分に話が飛んで、三子は口ごもった。

「う、うん……。やっぱり食べる方がいいかなあ。お昼食べてから、何も食べてないし」

 夏祭りだからと、おやつまで抜いたのだ。正直なところ、三子のお腹は限界だった。

「ようし、じゃあ食べ物系からー! わたし焼きそば!!」
「あたしたこ焼き」
「……私はアメリカンドッグ!」

 見事に綺麗に分かれた。普段は別段なんとも思わないことだが、お祭り気分のせいか、おかしくなって三人は笑ってしまった。
 食べ物系を一通り食べ尽くした後も、三人はヨーヨーや射的、金魚すくいなど普段はできないようなことを楽しんだ。戦利品としては、三子がヨーヨー一つで、由香里が金魚三匹、美樹がキャラメル一箱である。

「まさか由香里ちゃんが金魚すくい得意だなんて思わなかったな」

 綿飴をなめながら、三子はポツリと呟いた。これまた由香里もリンゴ飴をなめて口を開く。

「見直したでしょー。わたし、結構ああいうの得意だから」
「去年もそう言って金魚四匹もとってたよね。お母さんにまた嫌がられるんじゃないの?」
「……そのときはそのとき。だってもう愛着沸いちゃったんだもーん! もう名前まで考えてるし。ねー、キンコにギョッさんにウオ太ー」
「……見分けつくの、それ」
「つかない」
「あははっ」

 くだらないことを話している内に、三人は神社の真下に来た。一直線上の出店を突き当たりで引き返し、丁度真ん中まで戻ってきたようだ。

「そろそろ御神輿の時間かな」
「二手に分かれ始めたみたいだし、そうじゃない?」

 今まで自由に通りを歩いていた歩行者も、神輿が通るためか、徐々に端により始めていた。裏付けるかのように、遠くから歓声が聞こえてきた。

「私、御神輿って見るの初めてだ……」

 感慨深げに三子は呟いた。西尾市に住んでいた頃は友達がいなかったため、母と共に行った一回しかお祭りに行ったことがなかったのだ。そのお祭りでは、神輿という風習はなかったようで、単に出店を楽しんだだけだった。

「じゃあ取って置きの場所で見ないとね!」

 由香里はウインクをすると、浴衣の裾をグイッと挙げて、豪快に階段を上り始めた。突然の強行に、三子と美樹は唖然とする。

「同じ女の子とは思えないわ」
「……あはは」
「何してんのー! 早くしないと御神輿終わっちゃうよ!」

 三子と美樹は、顔を見合わせて苦笑した。どうやら、自分たちも同じ道をたどるしかなさそうだと。
 長い階段には、両端に別れて人々が腰を下ろしていた。一番眺めの良いところで神輿を見るつもりなのだろう。中には、焼きそばやたこ焼きを抱えて神輿が通るのを待っている者もおり、三人はただただ準備のいいことだと感心するばかりだ。

「でもどこも人で一杯だね……」
「もう少し階段上ってみようか」

 両端の人の列は、なかなか途切れなかった。この辺りでは一番の特等席なのだから、それもそうだろう。次第に三子達は息も絶え絶えになっていく。

「し、しんどい……」
「浴衣と下駄の時に階段って……。ちょっとこのチョイスは間違えちゃったね」
「でももうすぐ頂上だよ! あそこまで言った時の眺めはきっと格別……!」

 もはや、座るための場所を探すのではなく、頂上へ行くことが目的となっている。しかし、そのことについて深く考える気力も元気もなく、三子達は一心に足を動かすのみだ。

「つ、ついたあ……!」

 ようやく鳥居の下までたどり着いたとき、由香里は地面にへたり込んだ。頂上の階段にすら、人が座っていたために、もはやする場所などないのだ。三子も、正直なところ、地面でも何でも座りたい気分だったが、母のお下がりの浴衣のことを思うと、それもできない。仕方なしに膝に手を当て、呼吸を整えるしかなかった。

「ああ、足が痛い……」

 由香里は涙目になって下駄を脱ぐ。鼻緒のせいで、親指と人差し指の間が真っ赤になっていた。三子と美樹もまた然りだ。

「でもほら、景色がすごく綺麗だね!」

 だが、落ち込んでいても仕方がない。折角上ったのだから、と三子は眼下を見下ろした。闇夜の中にポツリポツリと灯る明かりは幻想的だ。いつもはくっきり星が見えるくらいには暗い日南市だが、今日ばかりは、人工的な光で溢れている。自然の光も美しいが、この光景もまた綺麗だ。
 三子が眩しげに目を細めると、美樹もまた賛同するように隣に立った。

「そうだよね。確かにここまで来たかいはあったかも」
「ねえ、それよりも御神輿御神輿! いつ通るのかな!」

 雰囲気をぶち壊すのは由香里だが、しかし彼女たちの目的は確かに神輿の方なのだから、それも無視はできない。
 三人は右から左まで視線をあちこちに巡らせるが、しかしどこを探しても、その姿は見当たらない。

「まだなのかな、御神輿ー」
「――もうとっくに終わったよ」
「へ?」

 突然後ろから声がかかり、三人は振り返った。和装姿で呆れたように立っているのは修平だった。

「だからもう通り過ぎたって。上るのに必死で気づかなかったのか?」
「そ、そんな……」

 由香里は思わずその場に崩れ落ちた。一体何のためにここまで上って来たというのか。

「ま、まあ綺麗な景色が見れたし、いいんじゃない? こういう日もあって!」
「そうそう。それに、あたしたちは毎年見てるんだからいいじゃん。落ち込んでるのは初めて見るって楽しみにしてた三子ちゃんの方だし。あんたが慰められてどうすんのよ」
「だ、だってー」
「……俺はもう行くからな」

 女子三人の中は居心地が悪いのか、修平はさっさと帰ろうとした。そんな彼を呼び止めるのは、つい先ほどまで落ち込んでいた由香里だ。

「待って! ねえ、仁科君の家って絆創膏あるかな? 私達、下駄に慣れてなくて……」

 申し訳なさそうに両手をすりあわせて由香里が言うと、修平はため息をついて踵を返した。何も言わないところを見ると、どうやら持って来てくれるらしい。そんな彼の後ろ姿に、美樹も間延びした口調で声をかける。

「ねえ、水ももらえない? あたしたち喉乾いちゃった」
「注文の多い奴らだ……」

 呆れたような声を残して、修平は家の中へ入って行った。三子たち三人は、始めこそ申し訳なさそうな顔をしていたもの、彼の姿が見えなくなると、うまくいったとばかり少しだけ噴き出してしまった。

「でもさ、しばらくここで休憩するとしても、またこの階段降りるのはしんどいよねえ」
「うん、本当に」

 三子は深々と頷いた。普通の格好ならまだしも、今は浴衣と下駄だ。靴擦れも起こしている。

「あたしたちが言えたことじゃないけどさ、みんなよくやるよね。よくこの階段上ってこようと思ったよ」

 神社には、あちこちに即席の椅子が設けられており、そこは全て老人達が独占していた。お茶を右手に、お祭りの戦利品を左手に、悠々適に過ごしているようだ。祭りの喧噪を歩きながら体感するのもいいが、こういうのも和やかでいいなあと、三子がゆっくり彼らに目を滑らせていたとき、思いがけないものが目に入った。そしてその驚きは、そのまま素っ頓狂な声となって言葉になった。

「馬場君!?」
「えっ!」
「はあ?」

 三子達三人の声に、健介の方も気がついたようで、始めは仰天したような顔で、そしてそれは、次第に気まずげな顔へと変わっていった。
 老人と将棋をしていたらしい彼は、美樹の手招きによって、いやいや三人の元にやってきた。

「なんだよ」
「別に。どうしてこんな所にいるのかなって」
「別にいいだろ」
「仁科に会いに来たの?」
「ちがっ!」

 率直な美樹に、健介は急に息を巻いて反論した。

「仁科の爺ちゃんにいろいろ話聞きに来ただけだよ! でも今は留守って言うし!」
「ふーん」

 熱のこもった反論に、美樹は気のない返事を返した。このあまりの温度の差に、三子と由香里は苦笑いを浮かべるのみだ。

「で、暇だからあの人達と将棋?」
「どうせ帰ってもすることないしな」
「馬場君、将棋できるんだね」

 あの健介が、老人達と静かに将棋をしている様が、なんだか可愛く思えてきて、思わず三子はそう口にしていた。健介はそっぽを向く。

「別に……ちょっとかじってただけだし。爺ちゃんが、将棋の相手してくれってよく頼んできてたから」
「爺ちゃんっ子だもんねえ」
「うるさいな」

 幼馴染みの仲の良さがうかがえる内容に、三子はすっかりにこにこ笑っていた。そんなとき、ようやく湯飲みを手に持った修平が現れた。

「何だ、馬場も来たのか」
「悪いのかよ」
「いや」

 気恥ずかしさに突っかかる健介に、修平は短く返事を返した。そうしてお盆の上の湯飲みを三子達三人に差し出す。

「ほら、これ飲んだらもう帰れよ。その恰好じゃ階段下りるのにも時間かかるだろうし」
「えー、そんな冷たいこと言わないでよ。ねえ、絆創膏は?」

 精一杯の主張をサラッと交わす由香里。修平は黙って箱ごと絆創膏を突き出した。

「ありがとー」
「俺も忙しいんだよ。もう行くからな」

 呼び止められないうちに、といそいそ歩きだす修平だが、一足早く、三子が彼の和服を掴む。

「ねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いいかな」
「……なんだよ」
「あの道の先って何かあるの? ロープ張ってあるみたいだけど」

 三子が指さしたのは、神社の左手にある小道だ。周囲には背の高い木々が多い茂っていて、今の時間帯は不気味にも思える。紙垂の下がったロープが張られているのも気になった。

「あれは伊礼山に続いてる」
「あー、なるほど」

 たったそれだけで合点がいったのか、由香里はそれ以上聞き返すことはなかった。三子としては、以前修平から聞いていた、よく幽霊がやってくる山としか分からなかったが、由香里同様、聞き返す気にはならなかった。

「じゃああの小道は?」

 三子は反対側の小道を指さした。今度はロープなどなく、誰でも入って行けそうな道だ。それこそ、散歩でもできそうに見える。

「あれは歩いてここまで登ってくるためのものだ。階段がきついって人はよく使ってる」
「ふーん、そうなんだー。わたし、初詣は三子ちゃんちでやってたから、そんなの初耳だ」
「俺の家でよくも堂々と……」

 爺ちゃんに聞かれたら殺される、などとぶつぶつ言う修平はさて置き、由香里は三子たちの方を振り返った。

「ね、あの小道から帰らない? 何か楽しそう」
「言うと思った……」

 修平と美樹の声が被った。三子も口には出さなかったが、そんな予感はしていたので、苦笑いを浮かべた。

「だってこの恰好で階段下りるのちょっと怖いし……。それに、お化けとか出そうでなんか楽しそうじゃない?」
「健介がいると洒落になんないから止めて……」

 美樹が困ったように顔に手を当てる。健介はムッとしたような顔を見せるものの、何も言わない。

「……肝試し、やらない?」

 ついに由香里の口からそれが放たれた。もうそれは予想通りだったのか、反論が出ることはなかった。ただ一人を除いて。

「おい、よくもまあこの俺を前にしてそんなことが言えるな。遊び半分で肝試しなんてやるんじゃない」
「まあまあ、そんなこと言わずにー。わたしたちだって、別にわざと幽霊の出そうなところに行こうってんじゃないんだよ? ただ、あの小道をいくつかのグループで分かれて行くことができれば……と思っただけであって」
「言い訳は無駄だ」
「ケチー」

 由香里が頬を膨らませながら言う。三子は困ったような顔で折衷案を出してみた。

「私達はこの長い階段で降りるのは無理そうだし、どちらにせよ、あの小道で帰るしかないんじゃないかな?」
「そう、三子ちゃんの言う通りだよ! わたしたちにこの階段はきつい!」
「じゃあ皆で帰ればいいだろ。グループに分かれる必要なんか……」
「いいじゃん、いいじゃん! ほら、組み分けしよ! グーチョキパーで分かれよう! ほら、馬場君もだよ!」
「俺もかよ」
「当たり前だよ! みんなでやった方が楽しいし!」
「あー、そうかそうか。もういい。やるなら勝手にやれ」

 修平の小言も、由香里の強引さの前には歯が立たない。修平は呆れたように踵を返したが、そうはさせまいと一本の腕が彼の襟を掴む。

「ぐえっ」
「待って待って。仁科君もやろうよ、肝試し」
「はあ? 俺はやらなきゃいけないことが山ほどあるんだよ。悪いが、遊びに付き合ってる暇は――」
「いいじゃんいいじゃん! これも思い出だよ!」
「何が思い出だ……。それに下まで行ったら、俺はまた上に登って来なきゃならない。二度手間じゃないか。何の苦行だよ」
「もう、ぶつぶつとうるさいなあ。ほら、皆じゃんけんー」

 由香里の騒々しい声の中、皆はそれぞれグーチョキパーのいずれかを出した。三つのグループに分かれるらしい。何度か繰り返した後、組み合わせが決まった。

「……なにさ、この組み合わせ」

 結果、その組み合わせに不満そうな者はただ一人。

「あの……あのね? 五人で三つのグループに分かれたら、もちろん一人だけのグループは出来上がるよね? ならないのはあり得ないと思うんだ。もちろん、それを承知でこうしてじゃんけんしたわけだし」

 ぶつぶつと独り言を言う彼女に、三子たちは困った顔を向けた。

「でもさ? 確か林間学校の時もこうだったよね? なんでいつもわたしなのかな? この前わたしが一人になったんだから、せめて今回くらいは誰か別の人が一人になれば――」

 あらぬ方向をじっと見つめたまま由香里が言うので、三子たちは居たたまれなくなってきた。私が俺が代わろうか……と、彼女の前に進み出たが、由香里は無言でそれを制した。

「いいの、公平なじゃんけんの結果なんだから、ここでわたしがグチグチいうのは間違ってる。まして、誰かに代わってもらうなんてもってのほか。大丈夫」

 全然大丈夫には見えない。
 三子はそう思ったが、口には出さなかった。

「でもその代わり、条件を付けてもらっていいかな? わたし、真ん中でいきたいの」

 彼女が出した条件は、三つのチームの真ん中を行くこと。
 たったそれだけの条件ではあるが、しかしどうも不信感が拭えない。それは三子だけではなかったようだ。

「……それだけでいいの?」
「もっちろん」

 疑い深い目で美樹が尋ねたが、由香里は大仰に頷いた。

「でもね、覚悟はしておいてほしい……。わたしが真ん中ということは、前のペアに追いつくことも、後ろのペアを待ち伏せすることもできるということ。……みんな、それは分かってるよね?」

 ふふふ、といわくありげな笑みを浮かべる由香里。三子たちはごくっと生唾を飲み込んだ。

「わたし、こう見えても怖いのとか平気なんだー。お化けとか、むしろ会ってみたいって感じだし。あ、いや、実際には馬場君のおかげで不足はしてないんだけど」
「悪かったな」
「ううん、別に?」

 明るく笑うと、由香里は散歩道の前まで駆けて行った。そして入り口の手前でくるりと振り返ると、至極嬉しそうに笑った。

「さ、一番に行くペアはどっち?」

 由香里のその楽しそうな声に、嫌な予感がしないわけがなかった。