04:罪悪感に反して
あれから一週間が経ったが、届け人デリックとやらは、その間全く姿を見せなかった。
シンディを見上げた時の彼のあの瞳。
シンディは未だその時のことを夢に見、そして罪悪感にかられていたが、後悔はしていなかった。自分の身を守るためなら、どんなことだってするつもりだった。
シンディは読んでいた本をパタンと閉じると、灯りを消した。最後まで読み切ろうと頑張るあまり、またつい夜更かしをしてしまった。
欠伸を堪えながら寝台へ向かうと、シンディの耳に、聞き覚えのある音が入って来た。コンコン、と窓を叩く音だ。シンディは一瞬目を見開いたものの、すぐに冷静さを取り戻すと、ゆっくり振り返る。
シンディとデリックは、しばし見つめ合ったままどちらも動かなかった。以前と同様、シンディが窓を開ける気配が無いのを見て取ると、デリックは窓枠に体を乗り出して近づいた。シンディは思わず身をすくませる。が、デリックの方はそんな彼女の様子など構うことなく、懐から手紙を取り出した。
「……っ」
「これ、またあなたへの手紙」
ひらりとデリックは手紙を振る。窓越しで、籠っている声は、いつもよりトーンが暗かった。
「一応、依頼人にも伝えたんですけどね。あなたに受け取る意思がないってこと。ついでに投げ捨てられたことも伝えました」
デリックの言葉に、シンディは小さく息を呑む。
後悔はしていない、確かに。
でもあの時のことが、すっかりそのまま手紙の主に伝えられたとなると話が違う。傷ついたはずだ、確実に。
「でもそれでもあなたに渡してほしいって依頼人が。これ、また新たに書いたものだって」
スッとデリックは手紙を差し出す。シンディは黙ったままそれを見つめるが、彼女の手がそれに伸びることは無かった。デリックは小さくため息をつく。
「届け人にあれこれ言う資格ないので、一人の男として言わせてもらいますけど」
声の調子が変わったので、シンディは窺うようにデリックを見た。二人の視線がようやくぶつかる。
「勇気を出して送った手紙を、読みも受け取りもせずに投げ捨てるのはどうかと思う」
デリックの視線は真っ直ぐだ。シンディの身体は強張るが、逸らすことはできない。
「届け人って結構高いんだよ。せめて内容くらい読んでから断りの返事を書いてもいいと思う」
シンディは言葉もなくデリックの手の手紙を見つめた。
彼の言う通り、シンディが先日投げ捨てた物とは違う手紙だった。質の良さそうな白い封筒に、汚い字ではあるが、懇切丁寧に書いたのだろう苦労が見て取れる。
罪悪感に、身体が震える。
確かに、投げ捨てたのはやり過ぎだった。相手側も、それを聞いたのなら相当ショックだったはずだ。だが、それでも。
「あなたに……」
小さな声に、デリックが眉を上げた。
「あなたに何が分かるの……」
シンディはキッと睨み付ける。
「見も知らない人に家も名前も知られてる恐怖、あなたに分かる? 何が入ってるかも、どんな言葉が書かれてるかもわからないのに、どうして易々と受け取ることができるの。こっちの気も知らないくせに、勝手なこと言わないで!」
自分で自分の衝動を抑えきれない。シンディは唇をギュッと噛みしめると、身を翻して寝台へ飛び込んだ。
もう二度と来ないでほしい。
それが彼女の本心だった。