第四章 自由か、服従か

37:船乗りの少年少女


 青く、どこまでも続く海を、一艘の船が走っていた。穏やかな波間をのんびり一直線に進むその姿は、まるで豪華絢爛な客船のようだ。
 進行方向に向け、甲板に立っているのは、もう齢十六の少女――セリアである。額には汗が煌めいているが、その表情は晴れやかだ。

「うえっ」

 船が一際大きく揺れた。客として乗っていた令嬢が、一層手すりに身体をしがみつかせた。船体から投げ出されることは無かったが、しかし、ただでさえ体調が良くなかったところ、更なる酔いが彼女を襲ったらしい。堪らなくなって、女はギリギリと歯ぎしりを鳴らした。

「〜〜っ、何よ何よ何よー! 一体どうして私がこんな目に! ――そこのあなた、セリアって言ったっけ!?」

 令嬢は、呑気に甲板に立っていたセリアに指を突きつける。セリアはゆっくり令嬢の元までやってきた。

「何でしょう?」
「この船、一体どうなってるのよ! 出発してからというものの、全然風景は変わらないし、ひどく揺れるしで、もう散々じゃない!」
「申し訳ありません。でも、こう見えてこの船、結構早く進んでるんですよ。もうすぐ目的地に着きますから」
「そんなの知らないわよ! 到着しても気分悪かったら最悪じゃない」
「きっとすぐに気分がよくなられますよ」

 目的地に着いたら、と再度セリアはそう口にした。令嬢はそれでも文句を並べ立てたが、乗組員に呼ばれ、セリアはすぐに行ってしまった。

「もう……最悪。船酔いなんて懲り懲り。早く地面に降りたいわ」

 一度せきを切った愚痴は止まることを知らず、聞いてくれる相手がいないにもかかわらず、女はそのまま独り言を続けた。
 一方で、セリアは操舵室に向かっていた。船の上では、彼女はすることがほとんどないので、連絡役を買って出ていたのだ。
 操舵室に入ると、セリアはすぐに船長に向かって声をかけた。

「もうそろそろ目的地だそうです。目印の岩が南南東三十メートル先にあります」
「そうか。じゃあカイル、上の奴らに声をかけて、帆を畳んでくれ」
「はい」

 セリアに目配せをすると、船長の隣に立っていたカイルは、すぐさま甲板にかけていった。セリアも彼の後を追う。

「もうすぐ目的地です! 帆を畳みましょう!」

 カイルが声を張り上げた。彼の声に、甲板でくつろいでいた船乗り達は、わらわらとマストに集まり、帆を畳み始める。ロープで固定したら、彼らの仕事は一旦ここで終了だ。

「皆さん、目的地に到着しました! 下層へ降りてきてください。ゴンドラに案内します」

 ここからはセリアの出番なので、彼女もまた、甲板に出ていた客達に声をかけた。下の船室からは、同じように乗組員が客に伝えている声が聞こえた。
 ぞろぞろと後をついてくる客を先導しながら、セリアは船尾まで降りた。船尾には、十ほどのゴンドラがずらりと並んでいる。その合間を縫って奥の壁まで歩くと、そこから飛び出しているレバーを力一杯下げる。セリア一人の力では、なかなか下まで下がらなかったのだが、カイルが一緒に手伝ってくれたので、レバーを下ろしきることができた。それと共に、船尾の壁が軋みながら上がっていく。やがて、壁が完全に上がりきると、そこから真っ青な海が姿を現した。

「皆さん、では、私たちが合図をしたら、ゴンドラに乗ってください。ゆっくり、一歩ずつ乗ってくださいね」

 カイルと力を合わせ、セリアは一番前のゴンドラを押し出した。緩やかな傾斜になっている部分まで押すと、五人の客に合図をし、中に乗り込ませた。その後から、ゴンドラ漕ぎも配置につく。

「では、是非楽しんでいってくださいね」

 そう言って、セリアとカイルは、再びゴンドラを力一杯押し出した。傾斜に沿って、ゴンドラは僅かに速度を上げて海へと出て行く。客達から興奮した歓声が漏れた。
 そうして、セリア達は、次々にゴンドラを外に出していった。ゴンドラが最後二つになると、セリア、カイル共々それぞれ乗り込み、ゴンドラ漕ぎとして海に出て行く。

「わっ、潮風が気持ちいいわね」

 空は快晴、海の調子も穏やかで、ゴンドラ遊覧も快適だった。代わり映えのない景色でつまらないと愚痴を零していた令嬢も、今ではすっかりご機嫌である。

「ねえ、人魚はまだなの?」
「もう少しですよ。あの岩が待ち合わせ場所なんです」

 セリアが指を指せば、それが合図だったわけでもないのに、海から何かが顔を出した。言うまでもなく、人魚である。客達が一気に色めき立った。

「うわあ、本物だ!」
「人魚さん、こっちにも来て!」
「ねえ、歌声を聞かせてよ。ずっと楽しみにしてたんだ!」

 我先にとたった一人の人魚に話しかける客達。女性の人魚は、くすりと笑うと、再び海の中に潜った。至極残念そうな声が客達から漏れる。

「もしかして、これで終わりじゃないよな?」
「人魚って気まぐれなの?」

 しかし、客の杞憂もすぐに無駄になった。また水面が揺らめいたと思ったら、一人、二人、三人と、次々に人魚が顔を出したからである。突然の光景に、客達はあんぐりと口を開けたまま、ただただ目の前の景色に気を取られていた。
 やがて、岩場に登った人魚が、徐にその歌声を披露し始めた。伸びやかに、どこまでも続くその歌声に、客達はうっとりと目を閉じる。
 やがて、人魚による楽会が終わる。客達は興奮げに惜しみない拍手を送り、その女性人魚はまた海に潜る。
 それからは、人間も人魚も入り乱れた華やかな光景だった。人魚と話をしたり、贈り物をしたり、客の中には、人魚と一緒に泳ぎたいと宣言し、自ら海に飛び込んだ者もいる。生まれてこの方、泳いだことのなかった男性だったので、溺れていたところを、すぐに人魚が引き上げてくれたのだが。

「セリア」

 人魚達の間をゴンドラで遊覧していると、セリアの元に人魚がやってきた。

「アデレード! さっきの歌、とっても綺麗だったよ」
「ありがとう」

 照れているのか、アデレードは顔を背けながら礼を述べる。だが、あるものに気づき、すぐに視線を上げた。

「あら、まだ私のつけてくれていたのね」
「もちろん! 大切な宝物だもん」

 そう言って、セリアは愛おしげに胸元に手を当てる。そこには、三枚の鱗にチェーンを通したネックレスがあった。サリムと長、そしてアデレードからもらった鱗である。いつも肌身離さずつけていた。

「なんだか変な感じ……。まあ、せいぜい無くさないようにね!」

 最後にそう言い捨てると、アデレードは再び海に潜っていった。彼女に触ろうと手を伸ばしていた令嬢は、海水が自分の方に跳ね、短い悲鳴を上げていた。
 アデレードが行って間もなく、次にウェルナーが水面から姿を現した。セリアからしてみれば、人魚達のこの登場の仕方には慣れたものだが、一般の人間はそうじゃないらしい。令嬢は再び高い叫び声を上げた。

「こんにちは、セリアさん」
「こんにちは、ウェルナー先生」
「今日は良いご報告があってきました」
「もしかして、先日の話ですか?」
「ええ」

 流れるような会話をした後、ウェルナーの雰囲気が変わる。セリアもそれに合わせて、真面目な表情になった。

「かなり先代まで遡って聞き込みをしたんです。その結果、非常に興味深いことが分かりました」

 ウェルナーは、興奮した口ぶりで説明する。

「人魚と人間の間に生まれた子供は、人間が三分の二、人魚が三分の一で生まれてきます。つまり、人間の方が優性なんですね。そして、この時の子供は、人魚であっても人間であっても、四肢の欠損事例は極めて低い。幼少期に身体が弱い、風邪を引きやすい等の懸念事項はあっても、明らかな障害はないんですよ」

 ウェルナーは、一呼吸置いた。若干その表情に陰りが入る。

「しかし、その子供が人魚と子供を産んだときは話が違います。おそらく、再び人魚の血を掛け合わせることによって、不具合が生じてしまうんでしょう。その子供が人間であっても、人魚であっても、相手を人魚として子供をなしたとき、その子供は障害を持って生まれてくることが多いんです」
「そう、ですか……」
「ええ。ですが、それはその代限りの話です。その後にできた孫にいたっては、人間の血も薄いので、その先の交配で障害を持って生まれてくる子供の確率も、次第に低くなっています。今の代の人魚には、人間と人魚、五分五分の血が流れているものはいませんから、それについては幸いです」
「では、人間にしてみても、交配の相手が人間ならば、健康な子供が生まれてくる可能性が高い、ということですか?」
「ええ、そうなりますね」

 ウェルナーの返事に、セリアは心からの安堵の息を漏らした。張り詰めていた緊張の糸が切れたので、思わずゴンドラの上に座り込む。

「あなた達、なんだか小難しい話をしてるのね」

 そんな彼女のゴンドラに、アデレードが寄りかかってきた。

「アデレード、話聞いてたの?」
「ええ。おもしろいのかなと思って。カイルも聞いてたわよ?」

 その言葉に振り返れば、気まずそうに笑うカイルが目に入ってきた。自分に関係がないとは言い切れないので、聞きたいのなら堂々と聞けば良いのに、とセリアは思った。

「じゃあ先生、もし人魚の末裔の人間同士が子供を作ったら? ちゃんと健康な子供が生まれてくるの?」

 アデレードは頬杖をつきながら尋ねた。ウェルナーはすぐに頷く。

「確率は多少低くなってはしまいますが、おそらくは大丈夫でしょう。過去にもその例が四件ありましたが、いずれも問題ありませんでした」
「ふうん」

 アデレードは、曰くありげにカイルとセリアを交互に見やった。カイルは慌てふためいたが、セリアはそのことには気づかない。

「じゃあ、エンリカさんにも良い報告ができるんですね? このことを伝えても大丈夫ですよね?」
「ええ。ただし、この説にしっかりとした確証があるわけではありません。あくまで、私一個人の仮説ですからね。ですので、盲目的に信じすぎると、裏切られる可能性もあります」
「分かりました」

 セリアは真剣な表情で頷いた。

「そのことも踏まえてちゃんと説明します。でも、エンリカさん、この頃つわりで酷く体調が不安定でしたから、このことを聞いたらすぐに良くなると思いますよ。覚悟はしていても、やっぱり不安そうでしたから」
「身重の身に不安は禁物ですからね。すぐに伝えてあげてください」
「はい! ウェルナー先生、本当にありがとうございました!」
「いいんですよ。また何かあったらご連絡します」
「はい!」

 ウェルナーは軽く手を振って、海の中に消えていった。名残惜しげにセリアがその水面を眺めていると、カイルが近寄ってきた。

「エンリカさん、体調はどうなの?」
「うん、あんまりよくはないみたいだけど。でも、サンドラさんが甲斐甲斐しくお世話をしてるよ。初めての甥っ子か姪っ子が見られるって」
「想像つくなあ。今度顔見せに行こうかな」
「その方が絶対喜ぶと思うよ」

 二人は笑い合った。いつの間にか、アデレードは姿を消していた。

「カイルもゴンドラ漕ぎの仕事をするなんて、ちょっと意外だったな」

 ポツリとセリアが呟いた。

「てっきり、この観光業の船乗りになると思ってたから」
「船乗りにもなるよ」

 カイルはシラッとした顔で答えた。

「船乗りにもなって、ゴンドラ漕ぎもする。俺、結構負けず嫌いだから」
「……初めてゴンドラ漕いだとき、散々だったのまだ根に持ってるの?」
「悪い?」
「じゃあ、私に泳ぎで負けたことも根に持ってる?」
「悪い?」
「…………」

 なんだかしょうもなくなって、セリアはちょっと笑ってしまった。

「でも、正直、セリアが人魚の観光業を始めたいって言ってくれたから、俺自身のこれからの指針も自ずと決まっていったんだよ」
「私のせい?」
「おかげ。俺、自分でも将来何がしたいって分からなかったから。でも、セリアにそう言われたとき、ああ、俺もそういうことがしたいなって思った」
「……でも、時々不安になる」

 セリアは瞳を不安げに揺らした。

「サリム達は、快く観光のことを受け入れてくれたでしょう? 船で大海に出て、待ち合わせ場所でお客達をもてなしてくれるって観光に。……でも、それって、サリム達の平穏を脅かしてないかな? ようやく神殿から逃れられたのに、民衆達の興味がまた人魚に移って、人魚を捕まえようってことにならないかな?」
「それについては、何度も話し合ったでしょ?」

 カイルは諭すように話した。

「人魚が親しみやすい存在だって事を、まず民衆に思わせる。人魚は飼うべき存在じゃないってことを示すためにも、こういうことは遅かれ早かれ必要だったと思うよ。このまま、人魚の存在が薄れていったら、やがて誰かの興味が歪んで、人魚を捕まえて解剖しようなんて言い出す人たちも出てくるかもしれない。人魚の存在は、世に知らしめた方が良いんだ。そうすれば、誰も悪いことはできない。人魚を捕まえようものなら、民衆が黙っちゃいない」
「……だと、いいんだけど」
「お兄ちゃーん、お姉ちゃーん!」

 セリアの暗い声を吹き飛ばすように、サリムが元気よく声を上げた。遠くの方で、彼がぶんぶん手を振る様が見て取れた。

「サリム!」

 セリアとカイル、二人の声が被った。あまりに息がピッタリだったものだから、二人は顔を見合わせて笑ってしまった。

「ん? どうしたの、何かあったの?」

 サリムがゴンドラによりかかる。カイルは首を振った。

「いや、何でもない。それよりもなんでこんなに遅かったんだよ? 寝坊したのか?」
「子供扱いしないでよ! 大切な用があって、遅れただけだから!」
「大切な用って何?」

 セリアは不思議そうに尋ねた。途端に、サリムはちょっとだけ逞しくなった胸を張る。

「この前、僕声変わりしたでしょ? だから、ついに音貝を作ってもいいって言われたんだ」

 自慢げな顔で、サリムは音貝を二つ取りだした。丸々とした巻き貝で、見た目からしてもなんだかサリムらしいと思ってしまったのは内緒だ。

「聞いてもいい?」
「駄目駄目。家に帰ってから聞いて。その時のお楽しみ!」

 サリムは悪戯っぽく笑った。その場でくるりと回ると、甘えるようにカイルに手を伸ばす。

「ね、お兄ちゃん、久しぶりに競走しようよ! 僕、あれからまた早くなったんだよ!」
「ええ……。競走ったって、俺が勝てるわけないじゃないか」
「やる前から弱音なんてらしくないよ! ほら、早く!」

 サリムに強引に引っ張られ、カイルは頭から海に落ちた。鼻から海水が入ったのか、彼は非常に不機嫌である。

「やったな!?」
「あはは、怒った? 捕まえてみなよ!」
「待てよ!」

 二人の差は歴然としているが、それでもカイルとサリムは楽しそうに競走を始めた。セリアは、それを眩しげな表情で見つめる。
 ――あの日を境に、ラド・マイムは少しずつ変わり始めた。
 一番大きく変わったのは、ラド・マイムの水質改善についてだろうか。
 水門が開くのが一年に一度であることや、排水設備が整っていない地域では、下水をそのまま運河に捨てていること、中にはゴミを捨てている者もいることが、これを機に一挙に問題となったのだ。
 埋もれかけていた民衆の声も再び日の目を見ることになり、この一年のうちに、全ての地域に排水設備を整えることが国によって約束された。それに伴って、細かく規定が設けられ、運河にゴミは捨てないこと、下水は流さないこと、そして水門も定期的に開くことが義務づけられた。
 こうした取り組みがなされるようになったのは、良くも悪くも、民衆に、不当に扱われていた人魚の存在が明らかになってからである。
 あの日、人魚や、いくつかの音貝が盗まれたことに腹を立てた神殿側は、エンリカ達を拘束した。そのことについては、予測していなかったわけではない。だが、切り札として用意していた、これまで人魚にしてきた不当な扱いを世間に暴露するという脅しも、彼らには通用しなかった。開き直られたのだ。もうここまで来たら、怖いものなど何もない、と。
 だが、神殿側は民衆の力を甘く見ていた。世間は、情に厚く、そして流されやすかったのだ。
 セリアやカイル、そして、地下神殿で不当な扱いを受けてきた人間達が、束になって毎日神殿の前で訴えていると、やがて、サリムの逃走劇や、水門での人魚達の行動を見ていた人々が、周囲の人たちに同じく訴えてくれたのだ。その小さな行動は、やがて波紋のようにどんどん広がり、大きくなっていく。彼らの主張は一貫していた。ラド・マイムの象徴たる人魚を、不当に神殿に閉じ込めていたなんて、と。
 その中には、人魚から得られる利益を独り占めしていたことに対する嫉妬も少なからずあった。しかし、だからこそ、民衆の心が一致したのだ。人魚を自由にせよ、と。
 しかし、どちらにせよ、圧倒的な民衆の声に、最終的には神殿が折れた。あるとき、突然エンリカ達を解放すると、もうこれで用は済んだとばかり、再び神殿は扉を閉めたのだ。
 それ以降、神殿側が謝罪の言葉を口にすることも、文句を言うこともなくなった。完全に口を閉ざしてしまったのだ。
 そのことを不満に思う民衆もいたが、やがては薄れていった。世間の話題は流動的なものだ。当事者がだんまりを決め込めば、関心は次第に薄れていく。
 セリア達にしてみても、それで良かった。神殿に恨みがないわけではなかったが、これまでの生活を思うと、何より平穏に、そして幸せに暮らしたかったのだから。
 その証拠に、ラド・マイムでの暮らしに、皆は生き生きしていた。初めて見る太陽に、肌に感じる風、賑やかな人々の声。
 仕事や住む家を探したり、買い物の仕方を覚えたり、人とすれ違うことに注意をしたり。
 ラド・マイムでの暮らしは、新しい発見もあれば、楽しみもあれば、差別されることも、苦しいこともあるかも知れない。うまくいかないことだってあるだろう。人間という種は同じなのに、その数が多いからこそ、諍いだって生まれる。どうしてわかり合えないのか苦悩することもある。
 だが、そんなときは思い出せば良い。離れていても、種は異なっていても、自分たちには仲間がいることを。自分のことを認めてくれる、迎えてくれる仲間がいれば、どんなに自信がなくたって、やがて自信が持てるようになる。自分は一人じゃないと。

「ねー、お姉ちゃんもこっちに来て! お兄ちゃんと協力しても良いから、追いかけっこしようよ!」
「あ、言ったな、サリム! 甘く見てるとそのうち痛い目見るからな!」
「僕を捕まえてからその台詞言ってよー!」

 ――人間と人魚。
 おそらく、もうきっとその血が交わることはないだろう。それでも。
 ――私たちは、ずっと仲間だ。

「うん、今行く!」

 セリアの胸元で、鱗のネックレスが光に反射して煌めいた。